1.視覚障害は真っ暗だけじゃない
私たちは「見えない」というと、真っ暗な闇を想像します。でも、真っ暗な人だけではなく、形はハッキリしないけど明るい暗いはわかるとか、視野が狭いだけなど、「見える」視覚障害者も多いものです。
2.こんな見え方の人もある
調査であがっているように、事故による失明もありますが、多くは循環器系の疾病で、網膜剥離を起こして失明をしている人が多いようです。
私たちの眼は、全部くっきりと外界の像を結んでいるのではなく、ごく一部だけが鮮明に像を結び、眼球がいろいろ動いて鮮明な像をとらえ、いわば頭の中で鮮明な部分を再構成して、外界の情報をとらえています。この鮮明な像を結ぶ部分は、血管が通ってなく、新陳代謝の弱い部分です。このため、長時間にわたって眼を酷使しますと、網膜剥離を起こしやすいのです。糖尿病など循環器の疾病で失明する率が高いのもうなずけることです。
この鮮明に像を結ぶ部分だけが見えない人、角膜が白濁して明るいと見にくい人、昼間は何とか形がつかめるけど暗くなると見にくくなる人、よく見えるけど視野が極端に狭い人など、さまざまです。
ですから、「見えない」ことを理解するのですが、一人一人を理解するために、言葉を一歩進めて「この人はこのように見える」としてはどうでしょうか? この方が、一人一人を理解しやすくなります。また、弱視者を理解しやすくなります。
3.弱視者にも理解を
「ある程度見える」弱視者は、白い杖を持って歩いているわけでもなく、見える人たちの中に溶け込んでいて、その存在がわからないものです。特定の施設がその人たちの実態を把握しているわけではありません。でも不自由していることに変わりはありません。私たちは地下鉄や私鉄の切符を買うとき、「○○○まではいくら……」と上の方の運賃表を見上げます。ところが多くの弱視者は、この運賃表の数字が読めません。小さな段差でも「ハッ」とすることがあります。明るいところから地下鉄構内の蛍光灯の明かりへ入っていくと、階段の段がよく見えません。黄色のブロックが敷いてあるところはいいのですが、美観を狙って、周りの色になじんだ色のブロックが敷いてあると、そのブロックがよく見えません。
人によって個人差はありますが、「行動の不自由」を持つ人は少ないのですが、「読書の不自由」はかなりあることでしょう。「大活字の出版」が始まったばかりの状況ですから、音声による情報提供は、この人たちにも有効な手段となり、テキストや写真が表示できるDAISYシステムはその「見える」程度に合せて利用が可能です。
4.文字が読みにくい人はおおぜいいる
単に視覚障害者に留まらず、音声による情報はお年寄りにも有効な「読書手段」となります。細かい文字の新聞では読みづらい人、字を見ていると頭痛がしてしまう人、寝たきりになっていて本を開いての読書ができないひとなど、音声情報は読書手段として有効です。
そのほか、学習障害(視覚からの情報を摂取できない大人から子どもたちまで。日本ではその実態がつかめていません。)の人たちや、脳性麻痺、病院入院患者など、本のページを繰れない人たちなどにも、音声情報とDAISYシステムは有効な手段となります。
5.不自由するのは何だろう
毎日配達される新聞、その中に折り込まれているマーケットのチラシ、図書館で借りる図書、町内の回覧板、ダイレクトメール、ガスや電気の検針票、電話の請求書、コンビニでつり銭と一緒にもらうレシート、電車の中の吊り広告、旅行社のツアーガイドなど、ふだん何気なく私たちの生活をとりまいている文字による情報。これらどれをとっても、視覚障害や通常の方法では読みにくい人にとっては「紙」同然のものばかりです。
私たちは、「見えなくなれば、さぞ不自由だろう」と,点字の図書や録音図書を作り、それを提供することで頑張ってきました。でも、提供できていなかったのは、日々個人をとりまく生活情報や地域情報だったのです。点字図書館でもボランティアグループでも、一人一人の生活情報まで提供できていませんでした。
6.必要な生活・地域情報
生活・地域情報は、一人一人の好みや興味が違うように、ある人にはつまらなく思えても、ある人にはとっても大切な情報であったりします。保健所の検診予定、粗大ゴミの出し方、税務署の申告期限から、スーパー日替わりの安売り、映画館の上映日程、ロックバンドのチケット発売情報など、さまざまな人の生活に合わせて、幅広い情報が必要とされます。また、これらの情報は、その日のうちにその人に届かなければ意味をなさないこともしばしばです。
7.仕事も勉強も
生活・地域情報だけでなく、仕事や学業についての情報も必要とされています。これらは専門の分野に踏み込むことが多く、文字から音声への変換には苦労を伴います。そして、必要とする人にとって、「いついつまでに読んでおきたい」という注文がつくことが多く、音訳する人は期限を考えねばなりません。
8.誰だって娯楽も必要
生活にゆとりができ、仕事・学業が順調であれば、誰だって楽しむことを求めます。最近の話題の本。ミステリもいい。昔からの名作をじっくり楽しみたい。カラオケもやってみたい……。古くから言われていますが、「衣食住」が足りれば、楽しむゆとりを私たちは必要とします。
9.視覚障害は情報障害
私たちは「見えない」ということから、「読書の不自由」や「歩行の不自由」を考え、点字図書館や歩行訓練施設を考えました。このどちらもが「情報障害」という言葉でくくることができます。聴覚障害者がコミュニケーション障害といわれるように、視覚障害は情報障害といえるでしょう。
この情報障害によるハンディ克服のため、その必要な期限内に、その人の必要度に合わせて、幅広く情報提供できる体制を作っていかなければなりません。
10.アクセシブル情報システムで使いやすく
点字による情報だけでは、活用できる人が限られてしまいます。点字を読めない多くの人たちにはアクセシブル情報システムが適しています。今まで使われてきたカセットテープは、必要なところを探し出して、必要なところだけを聞くことが難しい道具です。雑誌などの拾い読みには大変不便です。
この不便さを解消する新しい道具がデイジーです。DAISY(Digital Accessible Information System)は初めスウェーデンで開発され、その後国際標準となったシステム仕様で、その実用化は日本が世界をリードしているシステムです。このごろではSpec(仕様)をさすようになりました。誰もが使えるパソコンを使用して録音・編集をして、専用プレーヤーやパソコンで再生します。しおり機能やページジャンプ、大見出しから中見出し小見出しと渡り歩いての検索も可能で、プレーヤーでは、昨日聞いた個所からの再度の再生も可能です。CD1枚で50~60時間程度を収録できますからどんな本でも1枚に入ります。
音声だけではなく、文字や絵・写真も一緒に入れることができ、音声と文字はカラオケの歌詞みたいにシンクロさせることもできます。
パソコンを使ったデジタル化は、単にCDで聞けるということにとどまらず、いろいろなデータに編集・加工が可能となりました。急速に伸びているインターネット。インターネットを活用したサービスも始まろうとしています。先のデイジーはインターネットの標準技術が使われているのです。