1.まず耳を訓練しよう

 「ピッチがだんだん下がっている」と説明してみましたが、「エッ」と思った人が多かったのではないでしょうか。私たちはこの「ピッチの下がり」に気がついていなかったのです。聞き方を変えて、何度も聞いてみると、今まで気づかなかったことが「聞こえる」のです。私たちの耳は、あまり鍛えられていません。漢字をどう読むか、どう書くかの教育は受けたのですが、音声を聞き取る練習はしていません。しかし、聞き取りの体験を積み重ねれば、その「音」が聞けるようになります。それには、次のような条件があります。

  5分間聞く  どんなものでも我慢できる
  20~30秒  感覚的な印象になる
  2~3秒  フレーズの聞き取りやピッチの比較が可能になる

 私たちの聴覚は、たくさんの音の洪水からある音だけを選び出す機能を持っています。フィルターの役割をして不要な音を聞かないようにしていますから、「我慢できない特徴」のある読みを聞いていても、5分間ほど我慢すれば、聞いていられるようになります。20~30秒ほど聞いてしまうと、細かな特徴を覚えきれず印象だけが残ります。その印象を、「どうして」と追及するには、そのあたりを含めて2秒ほど聞いてみるといいのです。細かな聞き方ができるようになります。

2.フレーズを聞き取る

 まず、NHKのベテランアナウンサーが担当するラジオのニュースを聞いてみましょう。前もって録音をしてください。テレビでは別の要素が入りますから、ラジオにしてください。

今日の主なニュースです。小渕総理大臣は、今日、NHKの取材に対し次のようなコメント…… サンプル3

 フレーズの先頭のピッチは高くなります。2秒聞いたら再生をストップ、そしてまた2秒聞くという要領で、ピッチの高くなるところを聞いてみます。1センテンスを幾つのフレーズで読んでいるか、よくわかるようになります。仲間と一緒に聞くのもよいでしょう。お互いに1センテンスが幾つのフレーズだったか確認しあいます。

 このような体験で、耳が鍛えられます。「ずーっと続けて読んでいる」と思っていたアナウンサーの読みが、実は幾つかのフレーズに分かれていたことがわかるようになります。

3.「アレッ! おかしい」の例

 自分の読みを録音してみると、話しているときと違って「変な声」に聞こえることが多いようです。自分の声が他人の声のようで、思わず赤面してしまうことも……。誰もがこういった体験を持っています。これは、外から反響して聞こえる自分の声と、内耳から直接に振動が伝わって聞こえてくる声のうち、聴覚中枢が内耳からの声を選択してしまっているから起こる体験です。自分の声を聞くことに慣れてくると、外からの自分の声を聞くように切り替わります。これも「耳の学習」の一例です。

 さて、自分の思いを話すことと違って、声を出して原稿を読むのはずいぶん勝手が違います。変な読み方になってしまうことが多いことでしょう。そこで、NHKのアナウンサーの読みを聞いた体験を見習って、フレーズの先頭がどうなっているのか自分の読みを聞いてみます。「変だな」と感じた個所を2秒程度聞いてみましょう。フレーズの先頭のピッチはどれも高くそろっていますか? 変なときには、フレーズの先頭のピッチが不揃いなことが多いものです。

花の お江戸の 八百屋町

 「花の」の出だしのピッチを低くして、「お江戸の八百屋町」を1フレーズで読んでみてください。講談などの名調子っぽくなりますね。いつもの話しているときの状態と違ってしまいます。「あれ、変だ!」の多くの例は、フレーズ先頭のピッチが妙に低かったりして、不揃いのときに起こるようです。

4.自分の読みを録音して仲間と聞く

 耳を鍛える練習は、自分一人でやるよりも同じ仲間と一緒に練習した方が効果があがります。誰だって変な読み方をするもの。変な例が沢山あった方が耳の訓練になります。仲間同士でサンプルを出し合って練習をすすめましょう。(自意識過剰はだめですヨ。)練習は練習、実際に読むときには「練習を忘れて」読むことができれば最高!です。実際に読むときには、録音レベル、マイクの使い方、漢字の読み、アクセントなど、気遣わなければならないことが沢山あります(パソコンで録音するときも同様です)。例えば、フレーズの先頭のピッチが高くなるのは生理的な現象です。「高くしよう」と思わなくても高くなります。練習の効果は意識しなくても現れます。実際に録音するときは、ピッチに気をつけることやフレーズの状態を忘れて、無心に読むことにしましょう。

5.文末、フレーズの先頭、フレーズの終りのピッチ

 仲間と練習していると、次のような原則がハッキリしてきます。

・文章の始まりはピッチが高く、文末は一番低くなる
・フレーズの先頭のピッチは高い位置になる
・フレーズの先頭のピッチが変動すると、変な感じを与える
・フレーズの終りのピッチが同じような位置にあると、単調であったり、「○○調」が生まれたりする

 これらの原則は、話し手が落ち着いた気持ちのときの標準語会話の特徴と一致することでもあります。よく言われるように「話すように読む」とは、これらの特徴を指していたのです。文字でこのことを伝えるって、何とも大変ですネ。

6.文章の構造も考えてみよう

 読んでいてフレーズに分かれてしまうのは生理的現象から生まれてくるのですが、意味上、フレーズに分かれてはいけない個所があります。たいていは「読みトチリ」や「読みなおし」をしている個所の場合が多く、私たちは瞬時に判断して読みなおしています。私たちは、言葉の意味の掛かりぐあいを「統辞」とか「統語」と言っています。この統辞構造とフレーズには関係がありそうです。誰でもすぐに気がつくことなのですが、声を出して文章を読むときに失敗をしてしまいます。聞いていて意味がとりにくい読み方になってしまう……。次の文で考えてみましょう。

赤い 小さな 可愛い 花
しとしとと 長く 降り続く 雨

 どうも意味がわかりにくい読み方になってしまったとき、このような線引きをしてみると、フレーズの分かれ方で失敗していることがハッキリとわかります。これも練習に加えるといいでしょう。実際に録音するときには考えないことが大切です。意識するとぎこちない読み方が生まれてしまいます。「練習は練習、本番は本番」と考えましょう。

 もう一つ付け加えることがあります。それは句読点(くとうてん)です。「。」は句点といわれ文章の終りを示しています。「、」は読点と呼ばれています。ところが、これらの印は目で見たときの区切りを意味していて、声を出して原稿を読むときの区切りを意味していないということです。昔学校では、「句読点のように読むのですヨ」という指導がされてようですが、この際、忘れてください。これらの印ものは、黙読(もくどく)をするための意味上の区切りです。

7.関西の人は子音を強く

 声に出して原稿を読むこと……地方なまりの強い人は尻ごみをしがちです。特にアクセントを難問にしがちです。「アクセントはどうでもいい」とは言いませんが、なまりがあっても「目のかわり」の活動はできます。活動に取り組んで、余裕ができたらこの問題にも取り組んでみましょう。

 非常に重要なことなのに、忘れられているものがあります。調音(ちょうおん、構音ともいう)と呼ばれていることです。私たちの日本語は一つ一つの音節がハッキリしています。それをカナで書き表しています。この音節が最小単位のように思われがちですが、多くの音節は子音(しいん)と母音(ぼいん)で成り立っています。私たちは言葉というと、関西と関東という比較をよくします。違いをあげるのですが、際立った違いは先の子音と母音の違いです。東京方言をベースにした標準語では、子音中心の話し方をしていることです。関西の言葉は、母音中心の話し方になっています。長い間、日本の標準語でしたから、かなり広範囲の地域にこの影響があります。ぜひ、関西に近い地域で育った人は、子音を強調気味にそれぞれの音を出してください。参考までに、「子音分類表」をあげておきます。